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昨年末に劇場公開がスタートし、今なおシリーズが空前の大ヒットを続けている劇場版『空の境界』。2月9日からは『第三章 痛覚残留』が公開中。その壮大な世界観を支える音楽を担当するのはサウンドメーカーとして人気・実力ともに評価の高い梶浦由記さん。劇場版『空の境界』では、極力音数を抑えた音楽が印象的で、世界観や人物像をより際立たせることに絶大な効果を発揮している。
劇中音楽の制作のほか、梶浦さんは主題歌プロジェクト「Kalafina」(よみ:からふぃな)も手掛けている。Kalafinaとは劇場版『空の境界』のために始まったプロジェクトで、梶浦さん自らオーディションで選出した女性ヴォーカリストをプロデュースし、劇場版『空の境界』の各章ごとの主題歌を発表していくという、なんともボリュームのある、贅沢なプロジェクトだ。1月23日には『第一章 俯瞰風景』のエンディングテーマ「oblivious」、『第二章 殺人考察(前)』のエンディングテーマ「君が光に変えて行く」、そして現在公開中の『第三章 痛覚残留』のエンディングテーマ「傷跡」を収録したCDがリリース(限定盤、通常盤の2種類)。アニメーション自体、第一章から第三章まで違った雰囲気になっていることと同様に、主題歌もそれぞれのカラーに合わせた曲になっている。しかし3曲共、どこか幻想的でせつなさを感じるのは、劇場版『空の境界』に流れる世界観やイメージをしっかりとらえているからにほかならない。
今後も大きな物語の中、各章で違う表情を見せる劇場版『空の境界』に、梶浦さんがどんな音楽を付けるのか? そしてKalafinaの主題歌はどのように変化し、第七章の最後に流れる曲はいかな旋律を奏でるのか。――今回は、梶浦由記さんに、劇場版『空の境界』の歌と音楽について、うかがってみた。
●「全部、海の底のお話」
――まず今回のお話をいただいた時の感想は?
梶浦さん:作品名は知ってたんですけど、読んだことはなくて。だからお話をいただくまで“そらのきょうかい”だと思っていました(笑)。実際に読み始めたらハマってしまいまして、「ぜひやらせていただきたい」と。
――どの辺にこの作品の魅力を感じましたか?
梶浦さん:世界観ですね。例えて言えば、いろいろな事件が起こるんだけど、全部、海の底での出来事で、表面はシーンと静まり返って凍りついている、みたいな感じ。でもエネルギーや勢いは感じられて、その対照的なところがおもしろいなと思いました。
――映像化は困難と言われていた作品ですが、アニメ化が実現することについてはどう思われましたか?
梶浦さん:確かに2〜3時間で収めるのは難しい作品だと思いますが、全七章とうかがっていたので期待感が大きかったです。
●“引き算”で作った音楽
――劇場版『空の境界』の音楽を作る時、どんな音楽にしようとイメージされたんですか?
梶浦さん:作品を読ませていただいた時から頭にあったんですけど、『空の境界』の音楽を作る時に一番大事なのはバトルでもない、歌でもない、メロディでもない、『空の境界』の空気だと。それをまず大事にしようと思って、BGMではなるべくメロディを使わないようにして、音数もなるべく抑えて。音数を使う曲も2〜3曲に限定して、そこはバーンと聴かせるけど、それ以外では、ここまで音を使っていないBGMを作るのは初めてで。全部引き算なんです。作ってからどんどん音を抜いていく感じで、結果、ノイズだけになっちゃったり、ピアノだけになっちゃったり。聴いている人が、音楽が鳴っていると気付かなくてもいいくらい。でもずっと『空の境界』の空気は流れている、という音作りを目指しています。サントラが出せるか、心配なんです。曲らしい曲がないかも(笑)。
――章ごとに雰囲気やカラーが違うので、難しい部分があるのでは?
梶浦さん:『空の境界』のイメージというか、統一したカラーをずっと流したいなと思いつつ、章ごとの変化も必要なのが難しいですね。ノイズを多用していますが、第一章で使ったノイズは第一章でずっと流すし、第二章のノイズは第二章だけで流すとか、誰も気付かないかもしれないような細かいことはいろいろやってるんですけど……。ここまで第一章から第三章までで言うと、第二章はちょっとイメージが違う章なので変化はつけやすかったです。でも同じ空気感をずっと流しながら、章ごとの変化をどこまでメリハリをつけるかというのは難しいところでもあり、おもしろいところでもあります。
――第一章から使われている音楽で、印象的なシーンで使われている曲がありますね。
梶浦さん:第一章のOPに使われた曲は、実は小説を読んだ勢いで、打ち合わせ前に作ってしまった曲なんです。とつとつとした歌もので、第一章のメインテーマということになっていますが、全七章のメインテーマという扱いにしようと思っているので、たびたびではないけどいろいろなシーンで出てくると思います。あの曲は自分の中では式のテーマみたいな位置付けなので、たまに流れ、最後まで鳴り続ける音楽ですね。
●「ラブストーリーの色はどこかに出したい」
――第一章から第三章まで、各章の音楽のイメージを説明していただけますか?
梶浦さん:第一章は『空の境界』のイメージ全体を作るところなので、色を出すことを心がけて作りました。アンビエントっぽい音だったり、怖いものにしてもどこか透き通った音とかを入れました。曲になっていない音も多いけど、あの音がうっすら響いていることで統一感みたいなものが出せたんじゃないかなと思います。
第二章はラブストーリーだと思って作ったので割と甘めで、メロディを使わないと言いながらも、結果的には奏でているんです。ただ甘くし過ぎると『空の境界』の世界観からはずれてしまうので、どこかもの寂しいけど胸のせつなさは感じるようにしたいなと。『空の境界』はラブストーリーだと思っているので、その色はどこかに出したくて。
第三章は怖いんですよね。「助けて!」というくらい(笑)。でも怖いけど、すごく悲しいので頭からレクイエムを作っているつもりでやりました。悲壮な音から始めているので悲しいと言えば悲しいですね。
――実際に映像をご覧になった感想は?
梶浦さん:第一章は全体の世界観が好きだったこともあり、映像に驚かされたというか衝撃を受けました。コンテ撮を見て、ある程度は想像していましたが、まさかこれほどすごいとは思っていなくて。第二章もそうで、竹やぶのシーンがすごくて、音楽を確認しなきゃいけないのに、それを忘れて映像に見惚れてしまいました(笑)。
●5.1chとしての音作り
――劇場作品なので、音楽が流れる環境としても良かったのではないかと思います。
梶浦さん:劇場は5.1chということで難しい部分もあります。ステレオの場合は音のバランスが激しく変わることはないんですけど、5.1chは劇場や観る場所によって音が全然変わってしまうので…。「自分が意図した音で聴いてもらえないかもしれない」という心配が常につきまとう中でミックスを行っています。でもステレオでは出せない広がり感など、5.1chでしか出せない音もあるし、おもしろさもあります。5.1chの環境で音楽を聴いてもらう機会はなかなかないので、劇場ならではの音楽にも耳を傾けてほしいですね。
――上映館が限られたことで最適な映像や音楽を楽しんでもらえるようになっているんですね。
梶浦さん:ファンの方に最良の状況で楽しんでもらえるし、すごくいい方法だなと思います。レイトショー公開というのもいいですね! 作品の雰囲気にもあっているし。上映館数や回数が少ないことで見られない方もたくさんいたそうですが、徐々に見ていただく機会も増えているそうなので、これからどんどん『空の境界』の輪が広がっていくといいですね。
●主題歌プロジェクト「Kalafina」のねらい
――主題歌も章ごと違う楽曲なので、大変ですね。
梶浦さん:各章ごとに付けると言われると燃えるんです。絶対に「章に合った曲を作ってやる!」って(笑)。せっかくなので章ごとに作る意味合いも欲しいし。楽しいですよ。
――Kalafinaという主題歌プロジェクトを立ち上げた理由はどんなところにあるのでしょうか?
梶浦さん:主題歌のお話をいただいた時、楽団みたいな一つの形で音楽をやりたいなと思ったんです。その総称をKalafinaにして、Karafinaの音楽に合う歌い手を呼ぼうと考えていろいろな歌い手をオーディションで選びました。
――各章の主題歌について、ご説明いただけますか?
梶浦さん:第一章の「oblivious」は第一章のED曲でありつつ、『空の境界』全体のイメージ曲という意味合いも3割くらいあります。歌詞はあくまで第一章のために書いたもので、私が第一章を読んだ感想みたいな感じです。第二章の「君が光に変えて行く」は“君”は黒桐君のことで、式の視点から黒桐君を見ている感じです。第三章の「傷跡」は特に誰の視点ということはなくて……傷は誰でも持つものですから。どの曲の詞も各章に特化していて、私が各章を読んで浮かんできた言葉を綴りました。
――サウンド的にこだわったところはありますか?
梶浦さん:「透明感みたいものは無くしたくない」ということはボーカル選びの段階から考えていました。BGMは半分くらい抑えた感じにしているから、一番音楽を聴かせられるのは最後の歌ものなので、メロディが立つものにしようと。だからどの曲もメロディアスになっていると思います。
――第一章の試写会の時、主題歌に感激した式役の坂本真綾さんが梶浦さんに「すごくいい曲ですね!」と走り寄ったという話をされていました。
梶浦さん:あれはうれしかったですね。作品を演じてくれている方に認めていただけて。
――1月23日に発売されたCDには第一章から第三章までの主題歌が収録されていて、第三章に歌に関しては劇場公開前に発表される形になります。
梶浦さん:いろいろあって、そういう形になってしまいましたが(笑)、第三章を観る前に聴いていただくことで曲から「こんな感じになるのかな?」とイメージしながら聴いていただけたらいいですね。
――それぞれ、各章のED曲としてアニメと一緒に聴いていた曲達を、今回3曲まとめて聴くことでまた印象も変わるかもしれません。
梶浦さん:私も興味があります。また映画館とお家で聴かれる曲は5.1chとステレオという部分でも違いますが、暗闇で作品を観た時に聴いた時の音楽の印象と、CDで聴いた時の印象は違うんですよね。音楽として単体で聴いていただいたり、改めて作品の余韻にひたっていただいたり、いろいろな楽しみ方をしていただければと思います。また、初回限定盤の豪華BOXはとてもきれいで、これからリリースされる予定の第四章以降の主題歌CDなども入れられるし、プレゼントにもいいんじゃないでしょうか(笑)。
●七章を支える作品のクォリティは作り手の情熱
――梶浦さんをはじめとして、『空の境界』に関わる皆さんはこの作品に対しての情熱がすごいですね。
梶浦さん:みんなが「いいものを作りたい」というテンションを維持できているのは制作プロデューサーの近藤(光)さんの力が大きいと思うんですけど、近藤さんの舵取りの元に、みんなで一致団結していい仕事をして、いい作品ができたら、ファンの方々も大きな反響や反応をしてくれて、今すごくいい流れになっているので、このままいい波にのって最後まで一気に走り抜けたいですね!
――いいチームワーク、いい流れで進んできて、坂本さんが第三章の収録を終えた時、「もうあと半分なのかと寂しさを感じた」とおっしゃっていました。
梶浦さん:私は、作品の収録が終わって3年くらいしないと感じないんです(笑)。プレッシャーもあるし、「早く作ってしまいたい」みたいな。全編作り終えたら、寂しさを感じるのかもしれませんね。
――最後に、第四章以降について音楽のイメージや意気込みを聞かせてください。
梶浦さん:第一章の初めのテーマを作った時から音のイメージはできているので、そのイメージは今後も大きく変えないつもりです。ただ第四章からは登場人物が増えることで、少し作品のカラーも変わるので変化も出てくると思います。音楽と映像合わせて、劇場ででしか味わえない『空の境界』を楽しんでいただければうれしいです。
CD■「oblivious」/Kalafina
発売中
〔初回生産限定盤〕SECL585 2,000円(税込)
・「空の境界」イラストワイドキャップステッカー付き
・オリジナル豪華BOX仕様
・劇場版ポスター絵柄ポストカード封入
〔通常盤〕SECL586 1,223円(税込)
<収録>
劇場版『空の境界 第一章 俯瞰風景』エンディング・テーマ「oblivious」
劇場版『空の境界 第二章 殺人考察(前)』エンディング・テーマ「君が光に変えていく」
劇場版『空の境界 第三章 痛覚残留』エンディング・テーマ「傷跡」
発売:SMEレコーズ
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梶浦由記さん

■「oblivious」/Kalafina〔通常盤〕 1223円(税込)

■「oblivious」/Kalafina〔初回生産限定盤〕 2000円(税込) ボックス内のジャケットと、CDの盤面のカラーが通常版とは違う仕様になっている。

〔通常盤〕と〔初回生産限定盤〕。盤面の演出など、細かい仕様の違いがある。
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